Better call Saul/ベターコールソウル

伝説的ドラマ「ブレーキングバッド」のスピンオフで、ださい髪型の口が上手な胡散臭い弁護士ソウル・グッドマンが主人公になる。カツラだから髪型がださかったのよね。

1から3話くらいがやたらに退屈で、そこを乗り越えるのに3ヶ月くらいかかった。しかし4話目から突然展開が早くなり、そこから見るのを止められない。個人的にはブレーキングバッドより好き。

話そのものは大して劇的ではないが、主人公だけではなく周りの登場人物たちのキャラクターがきちんと描かれていて、それぞれの性格が相乗的に働くことで起きるエピソードのひとつひとつに必然性があってよい。

弁護士として成功したが電気アレルギーで家に引きこもっている兄のチャック。こいつがジミー(主人公の本名)に実は嫉妬していて、ジミーの成功を阻む。周囲の人間を巧みに操るしまさにフレネミーの見本みたいなヤツ。でもジミーはチャックが実は大好き。

関係を切れば二人とも楽になるだろうと思うが、いがみ合いながらも二人はお互いを遠ざけない。

チャックと同じくらい重要なのがジミーの恋人のキム。法律事務所の郵便係としてキャリアを開始し、そこからロースクールに通って弁護士試験にも受かった努力家。ジミーの兄が代表の法律事務所で働きつつ、陰でジミーをサポートする。が、ジミーと事務所の板挟みになって何度も痛い目に遭う。

窓のある個室で働いていたのに地下に追いやられ、新人たちと同じ仕事を押し付けられたりするが、泣き言を言わず、ジミーも責めず、自棄にならず、黙々と働き失地を回復するタフさを持ち合わせている。キャリアウーマンのお手本みたいな女性。

チャックはジミーを詐欺師だと責めるが、実はチャックこそがジミーの邪魔をし、ジミーを追い詰めている矛盾が秀逸。しかしチャックは自分がモラハラだとは夢にも思っていない。そして事務所の人間を使ってジミーを孤立させようとする。それに与しないのがキムで、彼女だけが二人の歪んだ関係を見抜き、ジミーの可能性を信じる。時にはジミーと詐欺紛いのこともするが、基本的に聡明で理性的なところがキムを際立たせている。最初のうちは地味すぎてキムの立ち位置が全くわからなかったが、後でどんどん存在感をましてくる。

キムは男社会でガラスの天井にぶつかっている。そこでキムを助ける脇役ペイジとの関係がまたよい。利害関係がない女性同士の助け合いがさりげなく描かれているところにほっとする。

タフガイ爺さんのアーノルド・エルマントラウトも脇役から準主役へ昇格して頑張っている。名前からしてドイツ系なんだろうか? ジミーと時々からんだりするが、基本的に別のストーリーラインで動いている。

ブレーキングバッドがドラマチックな中年危機の話だとしたら、ベターコールソウルは中年のジミーとキムが自分達を再定義し、しがらみのなかで新しい生き方を模索する話なのだろうか?