パニッシャー(シーズン2)

最初のうちはぐちゃぐちゃして何だかよくわからなかったのだが、焦点がはっきりするにつれてシーズン1以上におもしろくなってきた。

ルッソはフランクの凄まじい制裁を生き延びたのだが、記憶を失っているという設定でシーズン2が始まる。他方でフランクは通りがかりのバーで若い女の子のトラブルに巻き込まれる。

まずルッソはルッソだった。マスクをかぶったルッソが替え玉ということはなかった。ただ、マスクがルッソの過去と現在を分ける小道具としてうまく機能していたように思う。

シーズン1のルッソは社会的な仮面をかぶって生きていた。ハンサムで高級スーツを着こなし、政府とのコネクションをいかして会社を経営し、高い車を乗り回して欲しい女は手に入れる。でも自分を偽り、周囲の人間を裏切ることで地位と財産を守っていた。自分が築き上げたものを守るのに必死だったし、そのためには親友もその家族も犠牲にすることを厭わなかった。最後は嘘がばれて、ルッソに家族を犠牲にされたフランクと対決し、顔をぐちゃぐちゃにされた上、頭を滅多打ちにされて終わる。

でもシーズン2でハンサムな顔が大して損なわれていなかったのでよかった。本当ならキャプテン・アメリカのブロック・ラムロウくらいの面相になるはずなんだけど、そこはまあいい。

ただ、ルッソは記憶を失っているので、自分が何でそんなことになっているのか理解できずに苛立っている。素の自分に戻り、財産や地位どころか記憶も失ってちんけな犯罪者に成り下がったルッソはシーズン最初のうちはマスクをつけた姿でしか登場しない。そこで社会的なペルソナを失ったルッソが実際の生活でマスクをかぶり続けるという逆転現象が起きている。またそこでは、記憶すらなくして無になったルッソには、顔もないという象徴的な意味がこめられているような気もする。

そのルッソが脱走して自由を得て、同じく反社会的な元軍人たちとつるんで強盗を始める。元々統率力はあるからみんな従う。そこで本来の自分自身を取り戻し、それによってマスクをかぶる場面が次第に減っていく。

マスクを多用した最近のドラマにはペーパーハウスがある。でも当然のことながら、本作とはマスクにこめられた意味合いが全然違う。

もうこうなると主人公はフランクじゃなくてルッソですよ。シーズン1では薄っぺらい色男だったのに、過去を失っただけではなく、親友と信じるフランクに裏切られたと思って絶望を感じ、復讐に転じるまでの演技がすさまじい。ジョーカーのホアキン・フェニックスを越えてるのよ。ジョーカー見てないけど。

フランクとマダニのルッソに対する憎しみが強ければ強いほど、その対象となるルッソ自身のキャラクターがきちんと描かれていないと尻すぼみになってしまうところなのだが、ルッソの存在感がすごい。ルッソの複雑さと彼が受けた傷の深さによって、パニッシャーのシーズン2が1より重厚になり、フランクをはじめとする登場人物のありようにも深みが出ている。

精神科医で後でかくまってくれるクリスタ・デュモンとルッソのセックスも、シーズン1のマダニとのセックスとはぜんぜん違う。彼女もトラウマを抱えていて、そんな彼女とルッソのセックスには2人の混乱と心の傷の深さと、それゆえに相手とつながろうとする絶望と希望が感じられる。マダニとルッソのセックスはお互いに騙しあいながらも体を重ねて快楽を得ようとするカジュアルなものだったのだが、クリスタとルッソの関係は深くなればなるほど痛々しい。

そして当然の帰結として破局が訪れる。ルッソがフランクへの憎しみを手放して新たなスタートを切ろうとしたところで、希望が粉々に砕かれる。やかんのシューシューいう音が印象的なシーンで、これでシーズン1の屈辱を晴らしたマダニはすっきりした顔をするが、ルッソはまた憎しみに捉えられ、復讐の連鎖は誰かが死ぬまで、いや、死んでも続くという虚しさと後味の悪さが残る。

でもルッソは悪いやつなの? 自分の過去を憶えていない人間と、そいつに家族を殺された被害者と、どうやって決着をつけるべきなのかという哲学的な問いが根底に流れるシーズン2であった。

サブストーリーのエイミーのほうは、フランクと疑似親子関係を形成し、フランクにちょっぴりユーモアと優しさを生じさせ、過去から立ち直るきっかけを与えた。フランクのお尻から銃弾を取り出すくだりとかよかったよね。「私が女の子のだから縫い物できるはずとか言うわけ?」って、そういうクリティカルな場面でジェンダー論を持ち出せるような人間に私もなりたいと思った。

ルッソの話だけだと話が単純すぎてしまうからサブストーリーをからめたのだろう。シーズン1には謎解きがあったけど、2はそういう要素がないから。ジョンのサイドストーリーとか本編にそこまでからまないと思うんだけど、最後は手堅くまとめた感じ。ここまでまとまっていると、続編を作るのは難しそう。

暗い話だけど、自己愛性人格障害的異常者ルッソに心を鷲掴みにされたシリーズだった。多分私自身にルッソと似通った部分があるからここまで共鳴したのだろう。しかし何がどう似ているのかという点についてまでは考察したくない。