新人教育

下書きにはいったままだったのがあったから出しておこう。前の職場の話。

最近また新人が入ってきた。コロナで就職難とか信じられないくらい応募がなくて、ちょっとでもこちらがいいと思った人たちからはすべからくお断りされる。まあ気が利く人なら弊社が零細の半ブラックということに面接でなんとなく勘づいて、明確な理由はわからずとも断ろうという気になるのかも。そしてその判断は正しい。

さすがの社長も焦って、次に面接に来た人には誰でもいいので内定を出すと宣言した。そしてやって来たのはスーツも着用していない中途半端な職歴の30代前半の方。オンライン面接と連絡したのに、オンライン面接のやり方がわからないから直接面接してくれと事務所に乗り込んできた。この時点で黄信号である。

弊社の面接はゆるいので、社長は当たり障りのないことしかきかない。「xx大学卒業ですかー。すごいですね」とか「大学院まで行ったんですね」とかそんな感じ。このようにハードルはとても低いはずなのに、その上を飛び越えるのではなく、ハードルそのものに体当たりしてぶっ壊すような受け答えが実に印象的な候補者であった。首をかしげながら「キャンパスで飼っていたわんちゃんに赤ちゃんが生まれちゃって、かわいすぎて残ることを決めたんです。エヘヘーーー」。......凡人の私には思いもよらないユニークな返しである。

極めつけは「最後に質問ありますか」ときいたとき。
30代「私オンライン面接ってしたことないんですけど、どうやったらできるんですか? そういうのって家でみなさんできるんですか?」
私「えっと、あの……。スマートフォンをお持ちでしょうか?」
社長「iPhoneとか持ってないんですか? 持ってないなら、仕事にも使うかもしれないから買ったほうがいいけど」
30代「え、あ、そんな申し訳ないです。いいんですかーーー?」
……iPhone買ってもらえると思ってるよ。

スマホの使い方も知らず、それを調べるスキル(?)がないことを自ら暴露する無邪気さに加えて、コミュニケーション能力においても相当なマイナスポテンシャルを有していることが容易に想定できる。それなのに社長は事前に宣言した通りその場で内定を出し、彼女は翌日から勤務を始めた。(こういう方はおおむね失業中であることが多いので、すぐにスタートできるのが唯一のメリットである。)

仕事開始からすでに数か月が経過したある日の彼女の業務風景はこんなんである。
「新人さん、この仕事やったことありましたか? 右上に赤字で書かないといけないことあるけど、大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫でーす。わかってます」
その5分後
「新人さん、提出前の書類見たけど、右上に何も書いてないですよ。5分前に確認したときはわかってますって言ってたけど、忘れちゃったの?」
「あ、別のことをきかれたと思ってました」
「何をきかれたと思ったの?」
「......。」
「それからこれだけど、ベテランさんが準備してくれたものには必要事項が書いてあるから、zipを解凍してそれを印刷するだけでいいのに、この書類にはそれがないですよ。これはどこから持ってきたものなの?」
「お客さんが送ってきたやつです」
「なんでベテランさんが準備してくれた資料を無視して違うものをもってくるの?」
「......。」

部下がミスったときに「なんで」ってきくのはダメな指導者の証拠。しかし彼女のユニークさによってはからずも私の無能さまで露呈してしまう。こういう時は「何が原因だったのかな?」ってきかないといけないらしい。

でも私がそのフレーズを使おうとすると、「ベテランさんが準備してくれた資料をすべてプリントアウトすればいいだけなのに、何が原因で一部を見落として自分勝手な判断で違うものを印刷して周囲の人間の仕事を増やすような余計なことをしたのかな?」っていう嫌味なひねりが絶対に入ってしまう。

こういうヒトを叱らずに気長に教えこみ、自信をつけさせて一人前にするのが本物の人格者であり、信頼のおける上司と言えよう。ゼロから教え込むって大変。私には無理だな。結論はそれ以外にない。